BASEを活用している注目のショップオーナーたちにブランド作りの秘訣を聞く、オーナーズインタビュー。
今回は、和装を現代のスタイリングに落とし込んで「洋服を楽しむように和装も楽しんでもらいたい」という思いを発信するメンズの着物ブランド<Y. & SONS(ワイアンドサンズ)>の平松さんに、ブランドの想いやおすすめの着物や浴衣の商品についてお伺いしました。
和装に洋装をミックスさせてコーディネート提案
ーーブランドを立ち上げたときの想いを聞かせてください。
弊社は着物の専門店やまとで日本全国に120店舗(2018年3月期)あります。着物の小売市場で売上が日本一ですが、男性のお客さまはその当時(2015年)だとわずか1%前後でした。ただ、当時の3年間ほどの統計を見ると、年間200人ずつほど男性客が増えていることに気づきました。
そのとき、私は玉川高島屋SC店にいて、夏の時期に浴衣を着る男性が2015年を境にして実際増えていることを感じていました。私たちは着物を日本一売り上げている訳ですから、男性の市場も創造する社会的使命があるのでは、と考えるようになりました。
とはいえ、これまでの着物屋に良くあるような従来の販売やお店の作りではなく、反物がずらっと並んでいる中から生地を選んでいただいて、着物という枠にとらわれず、お客さまが好きなアイテムでコーディネートをしていただく、という新しい提案をしています。
ーー小物だったら着物に合わせるものではなく、洋服に合わせるものを提案していますよね。
そうですね。ファッションが好きな人を一番のターゲットにしているので、そこは私たちの強みですね。もちろん、下駄や巾着も提案していますが、ハットや普段使われているバッグなどを使ったスタイリングの提案をしていることが、他の男性着物店との違いですね。
ーー「きものテーラー」をコンセプトにしているのは?
着物はそもそも生地から仕立てるものなので、テーラーメイドなんですよね。なので、このコンセプトを謳っています。それと、ブランド名の<Y. & SONS>には、「〜SONS」というイギリスのテーラーに良くあるブランド名で、ブランドが子孫末代まで続いていくという意味があるので、その思いも込められています。
また、「着物や浴衣が欲しいけど、どこに行ったらいいか分からない」というお客さまが実は多くて、ホームページなどを見たとき「何を買ったらいいのか」「そもそも価格はいくらなのか」という疑問が解消されていなのでは?との個人的な思いがありました。
そこで、私たちは仕立て代込みの価格を表示しています。実は、業界でこのような取り組みはなくて、百貨店さんとかは反物のみの表記で仕立て代は別。じゃあ、実際の仕立て代を含めた価格はいくらなんですか?というのが良くあります。そういう点は意識していましたね。
日本の和装を広めたいという思いでやっているので、リサーチとして他の着物屋さんはもちろん見ましたし、大手セレクトショップさんで接客をしたこともあります。
私たちは着物屋としての販売をやって来たので、アパレルやホテルなど、他の業界での接客方法を学ぶことにも挑戦しました。
業界の垣根を越えたスペシャリストたちの参加
ーーブランドを立ち上げたときは苦労されたとか?
会社はメンズ専門店の立ち上げが初めてで、このようなブランドもほぼ初だったので、ノウハウが全くありませんでした。今のお店では、当たり前のようにハット、バッグ、サンダルなど並んでいますが、買い付けるのは大変でしたね。
私の上司でもあるプロジェクトディレクターがいろんなところに相談へ行っている中で、アートディレクターの平林奈緒美(有名企業のアートディレクションを多数手がけている)さんと縁があってお会いして、すごく頼み込んだというか・・・。最初、すごく長文の手紙を出したりとかして、なかなか返信が来ないことも。そういう苦労がありながら、そこからまた縁があって、内装をしてもらったのはインテリアデザイナーの佐々木一也(有名ショップの内装デザインを多数手がけている)さん。そして、撮影時のスタイリングやバイイングディレクターをしていただいているスタイリストの二村毅(著名人のスタイリングを多数担当)さんにも繋がっていったんですね。
さらっと言っちゃいましたがそのへんのやり取りは、ブランドができるまで相当苦労した部分ですね。
ーー大変苦労されて、各業界の有名な方たちにご協力いただいたんですね。
はい。そこを、着物業界の人に頼んでいたら今のようになってなかったと思うんですよね。あえて、業界を飛び越えて各界のスペシャリストの方々にお願いをして理解をしていただいて、というところがY. & SONSの原点というか強みというか。
ーー逆に、嬉しかったり楽しかったりというのは?
ホームページやSNS、雑誌をご覧になって、着物や浴衣に憧れを持っていた、というお客さまがたくさんいらっしゃったことですね。どこに行ったらいいのか分からない、でもY. & SONSなら安心して着物や浴衣をお願いできる、と言ってもらえました。やっぱり、着物を知らない方や初めての方が多く、そのあたりはブランドの見え方があって来ていただいているので、期待感を超える接客を心がけています。実際、着物を買って着ていただいてリピートもしてくださるので、それはやりがいにも繋がりますし嬉しいですね。
古さと新しさを感じさせる神田から和装を発信
ーー実店舗を神田という、ファッションとはあまり縁がない土地を選んだ理由は?
当時は表参道のような場所も案にあったらしいんですが、やっぱりそこに出るよりかはもっとショッピング街ではないところ、かつ歴史がある街、でも例えば京都とかではなくて。
ここも本当に面白い街で、江戸を香らせた匂いがある一方で、秋葉原へ行くとまさに今じゃないですか。そういうのが混在しているところは、やっぱり刺激的だなと。ただ、実はたまたまこの物件は空いていたという(笑)
色々探したときに、ちょうどいいところがあって。それも縁ですよね。実際、ショッピング街ではないので、だいたいここを目掛けて来てくださる方が多いんですよ。
ーーこちらのお店に来るため、初めて神田に降り立つという人も多そうですよね。
多いですよね。神田を良く利用している方でも、「こんなところにあったの」という方も多いです。多分、白壁だから気づかれないのかもしれない(笑)大みそかとか年明けとかはすごい人来ますけど、何年も来ている方が「いつからあったの?」と「4年目なんです」という話は良くしますけどね。
初めて来られる方は緊張されている方も多くて。でも、私やスタッフに触れてもらうと、全然敷居は高くなく、かなりフランクに話しますし、いい意味でイメージを裏切った接客をしているとは思います。かちかちにやるとさらに着物が難しくなっちゃうので。
それもある意味でブランドのこだわりの部分で、イギリスのテーラーもお客さまとスタッフが会話をしていく中で選んでいくんですよね。そのへんがこだわっていますよね。もちろん、既製服を売るというのもあるんですけど、我々は基本的には反物(生地)からお客さまを採寸して試着していただいて、色々話していく中で選んでいただいて、というプロセス自体は着物屋としてかなり珍しいかなと思います。
仕立て屋としてのこだわり
ーー実店舗は、直接来店とネットで購入したときの採寸という2つの役割を持っていますが、ネットショップと併せて今後はどのように運営しますか?
最初、BASEを使わせてもらったとき、商品を全然載せてませんでした。<Y. & SONS>ってこういうお店なんだみたいなのを、カタログ的な役割として担っていて着物も出していませんでした。でも、2年目から反物の写真をきちんと撮って、年2回のコレクションの写真も上げるようにして、ようは実店舗とネットをほぼ同じ状態にしはじめたんですよね。
そうすると、このあいだ面白かったんですけど。お店に来られた方が、2時間後にネットで買い物をされたんです。しかも、試着をされた商品ではなかったんですよ。多分、ネット上で見てから「実店舗でどんなお店なんだろうな」という確認だったと思うんですよね。なので、実店舗はちゃんと商品があってスタッフがいて対応させていただいて、どっちでも買えますからという意味では両方あると強いですよね。
逆に、カタログ的な意味合いもあって、だいたいうちに置いてある商品の価格帯もネットを見れば一発で分かりますし。
ーー洋服でも、実店舗で商品を見て試着はするけど実際の購入はネットから、というのも増えてますよね。それと同じような状況なんですね。
そうですね。なので、実店舗に来て採寸さえそこでして頂ければ、もうお家に帰られてメールやお問い合わせで、「やっぱりあの商品欲しいんですよ」と言われたらすぐネットに上げて購入してもらう、というケースも全然あります。たまに、ネットには載っていない商品でも、メールのやり取りをして「採寸しているので大丈夫ですよ」っていうのとか。採寸していない方でも、着物の採寸って意外と簡単というか、身長、ヒップ、体型、手の長さが分かれば、ある程度作れるんですよね。
採寸自体はそんなに時間かからないですし。そういうのも、実は簡単に作れますというのも出していきたいなと思っているんですよ。
ーー実店舗とネット。売れ筋の違いは?
実店舗だと4月の頭に浴衣を出しはじめるんですよね。もちろんネットでもそのタイミングで出します。実店舗は浴衣がメインになりますが、ネットは浴衣よりかは小物系ですね。着られる方が買い足すとか。あとは最近ネットで増えているのは海外の方ですね。何通もメールのやり取りをして、浴衣とかハットとかを一式で購入された方とか。
あと、2016年2月から扱いはじめたCOMOLI(コモリ)というブランドとコラボしたコートがあるんですけど、それなんかはネットで出した瞬間にお買上げいただいたケースもありました。COMOLIのタイロッケンコートの袖巾を広げるなどをして、着物の上からも羽織れる仕様のオリジナルなんですよね。そういうのはすごかったですね。実店舗ではそんなになかなか売れないですけど、多分探している人とか知っている人がネット上ですぐ買って、みたいなのはありましたね。
ーーコラボ商品は定期的に販売しますか?
定期的ではないですけど、じわじわ増やしてはいますね。今後、我々ならではの着物や浴衣の生地を使ったシャツとか、っていうのも考えてはいます。まだ、形にはできてなくてアイデアベースですけど。来期の春夏ですかね。色んなブランドさんやメーカーさんに別注して、うちならではのアイテムを作っていきたいですね。そういうのも、ネットに出していくとかなり稼働していくと思います。
日本全国、海外でもブランドを知ってもらう
ーー最近のファッション業界について
そうですね。思うのは、何か世の中に新しいものやことを提案していかないと残っていけないんだな、っていうのはひしひしと感じますね。ブランドがずっと語り継がれていくために、コラボなのか新しいブランドの立ち上げなのかは分からないんですけど。
Y. & SONSも奇をてらったことではなく、来年は5年目になりますから。それこそ、さきほどお話したシャツを作ってみたり、海外に出ていくのもそうなんですけど、まだ1店舗しかないので広がりという意味では大々的には広がらないですよね。何か少しずつでも、ファッション業界を見ていると常にアップデートしていかないといけないのかな、とは思います。
ーーもしかしたら、他にも店舗も?
実はこの前、長崎のセレクトショップさんから「浴衣を扱いたい」っていうお話があったんですね。それでお店に来てもらって、その翌日に長崎へ行って店舗を拝見したんですよ。このお店だったらぜひやりたいなと思って、3日間だけポップアップショップをさせていただいたんですけど、30年以上されているセレクトショップさんなので、お客さまがすごくいらしゃるんですよね。スタッフさんとの信頼関係もあるので「和装しましょうよ!」みたいなノリで、みなさんすごく買っていただいたんですよ。めちゃめちゃ反応が良かったですね!
今回の長崎をきっかけに、これまで伊勢丹メンズ館さんとかですごく大規模なポップアップをやってきました。そういうのもいいんですけど、地域に根ざしたセレクトショップさんに我々から出向いて、何かしらやりたいなとは思います。やまと自体、卸ってそんな大々的にやってないんですね。なので、Y. & SONSも卸をしていることを知られてないんですよね。じわじわとそういう動きも作っていきながら、色んな広がりを持たせて行かないとな、とは思いますね。
ーーいずれ、地方の有名なセレクトショップに商品が置かれる?
それはもう理想ですね。海外もそうですよね。なかなかここに来られない方とか、取り扱い店舗でY. & SONSを知ってもらい何らかの機会で東京へ来たときに寄ってもらう。そういう行き来ができたらすごくいいと思うんですよね。
広がりという点では、私がいた1年目と今とでは断然変わってきていますね。本当に、雑誌やテレビ、ネットの広がりから来店もすごくありますね。当時もありましたけど、今ほど多彩な入り口というか本当に多方面から来ていただいてますね。
ーー今後のブランド展開について
<Y. & SONS>が伸びていくには、ものづくりの面でも色んな部分で、これまでなかったようなものも作っていかないといけないし、一方ではちゃんと継続してものづくりもしていかないといけないし。長崎を例に挙げれば、こちらからアプローチしていって、卸部門もきちんとやっていかなといけないですし、海外もちらほら繋がりができはじめてはいるので、海外でも認知してもらえて、というのは理想ですね。
ーー夏は浴衣、冬は着物というように、年間で和装は楽しめますよね。
はい。浴衣と着物って、着るものが少し増えるだけで他は何も変わらないので、冬の方がもしかしたら楽しめる機会が多いのかなって思ったりもしますね。夏よりも出かけやすいと思うので。花火大会とかお祭りだけではなく、ちょっとしたお出かけのように何気ないときとか、同窓会に行くときとか、そういう盛り上がりを作っていきたいですね。
<Y. & SONS>
住所:東京都千代田区外神田2丁目17番2号
電話:03-5294-7521
営業:11:00 – 20:00/水曜定休日
Official site:http://www.yandsons.com/