近ごろよく耳にする「サステナブル」。
しかしながら、実際になにをすればいいのかわからない・ピンとこない方も多いのではないでしょうか。
BASE Uでは、環境に配慮した商品や、サステナブルな取り組みをされているショップオーナー様にインタビューをおこないました。
この記事を通して、サステナブルな取り組みを実践されているオーナーさんの想いを感じながら、自分の生活やネットショップ運営のなかでなにができるか、考えるきっかけになれば幸いです。
今回お話をうかがったのは、「アップサイクル」によって作られたインテリア製品を扱う<tumugu>企画・運営、セレクトショップ<upcycle interior>を運営する土井 健嗣さん。
ギャラリーで作品を手にされる土井さん
「アップサイクル」とは、古くなったものや使わなくなったものを、ほかのものとの組み合わせやデザインの力によって、新しい価値を生み出す活動です。
ランドセルが壁掛け時計に、サックスがサイドテーブルに、と自由な発想で新たな価値を生み出す土井さんに、ものづくりの想いや、これからの展望についてうかがいました。
目次
学校用品への愛着を大事にしたい
ーー「アップサイクル」の活動をはじめたきっかけを教えてください。
きっかけは、廃業した学習塾の机をリメイクしたことです。
実家近くの学習塾が廃業するので、使っていた学習机も廃棄される、というのを聞いたんです。
学習机って、小学校でだれもが使ったことがある思い出の品ですよね? 多くの方が、自然と愛着を持っていると思います。
それが廃棄されてしまうと聞いて、さびしいし、もったいないな、と感じたんです。
趣味がDIYというのもあり、学習机をリメイクできないかなと考え、机を引き取ったんです。
机は、脚の部分がぼろぼろに錆びていたり、折れていたりしていました。
それでも、板の部分はまだまだ使えるものだったので、足を切ってローテーブルにしてみたんです。
現在でもローテーブルは購入することができる
その当時は、ネットショップを開設していなかったので、フリマアプリで販売していました。
ーー「アップサイクル」という言葉には、どのように出会われたのでしょう?
学習机をリメイクしたときには、「アップサイクル」という言葉自体を知らなくて。
廃棄される学校用品を引き取って、リメイクする活動をはじめてから2~3年経ったころ、「ほかにこういった取り組みをされている方はいるのかな?」と思い、ネットで調べたのがきっかけですね。
調べてみると、海外のサイトや投稿がたくさんヒットして、そこから知りました。
アップサイクルの作品が生み出される工房
日本だと、衣類などの繊維のアップサイクルはあったようですが、 僕がやっているインテリア製品の例は、かなり少なかった印象です。
自分の作品を通して、日本でもアップサイクルを広められたらいいな、という想いもあり、活動を続けてきました。
ーーネットショップで作品を販売してみて、反響はどうでしたか?
ご購入いただけたのは、正直びっくりしましたね。
経年した素材や製品がベースなので、新品と比べると、やはりよごれや傷などがあります。
それを“味”として、理解し、気に入って購入いただけたことがとてもうれしかったです。
自由な発想で、新しい価値を生み出す
ーー<tumugu>の作品は、ランドセルが壁掛け時計に、学校の蛇口がウォールハンガーにと、思いもよらないインテリアへとアップサイクルされていると感じました。
こうしたアイディアは、どうやって生まれるのでしょうか?
ちょっと気になる素材があれば、手に取りながら考えるようにしています。
最近では、アップサイクルできませんか?とご依頼いただくことも多いので、実物を見ながら考えていますね。
工房で作業される土井さん
<tumugu>では、「インテリア」とジャンルを限定しているので、アイディアを発想しやすいんです。
数あるインテリアの中で、「この形は何にフィットするかな」と素材を触りながら考えています。
そうやって考えている時間が、やっぱりいちばん楽しいですね。
ーー作品を作る上で大事にされていることを教えてください。
アップサイクルされた完成品から、元の素材や製品、そしてそれを使っていたころの思い出や愛着を呼び起こせるように、デザインすることですね。
せっかく買ってもらった<tumugu>の作品を長く使ってもらうためには、やっぱり愛着が大事だと思うんです。
壁から蛇口、ではなくウォールハンガーへアップサイクルされた作品
なので、できるだけ素材の一部や部品をそのまま残しつつ、元が何だったのかがわかる形で、新しいインテリア製品に作り変えていくことを目指しています。
あとは、長く使っていただくために、耐久性も大事にしています。
学校用品でいうと、子どもが乱暴に扱っても壊れないよう、頑丈に作られているので、耐久性が必要なインテリアとは、とても相性がいいんです。
とはいえ、僕自身、趣味からはじめた製作なので、アップサイクルしたあとの強度や耐久性については、町工場などのプロの方に相談して作り上げています。
愛着や思い入れのある製品をアップサイクルして、より長く使っていただきたいのに、すぐに壊れちゃったら、元も子もないですよね。
デザイン性だけでなく、耐久性も、職人さんの知恵をもらいながら、こだわって作っていますね。
思い出も愛着も、いっしょに「アップサイクル」
ーーランドセルのリメイクも請け負っていらっしゃいます。思い出や愛着を残していくのにぴったりな取り組みだと思いました。
本来、アップサイクルというのは、自分が使っていたものを、別の形へ作り直して使い続けていくことなんです。
ランドセルは、小学校の6年間、成長の思い出が詰まった品です。
それに、6年間使えるように、丈夫な革や縫製で作られている。卒業して捨てちゃうのは悲しいし、もったいないですよね。
そこで、ランドセルの蓋の部分を、壁時計にアップサイクルするサービスをおこなっています。
壁時計を見るたびに「ああ、この傷はあのときについたよね」と、日常生活の中で6年間の成長を思い出してほしいな、という想いで取り組んでいます。
ランドセルがアップサイクルによって、壁時計に
ーー自分が使っていたものを、アップサイクルしていただけるとよりいっそう、愛着が沸きますね。
そう思います。
最近では、ランドセルを買ってくれたおじいちゃん、おばあちゃんへのプレゼントや、結婚式のサプライズギフトでの注文など、作品への想いに共感していただく方が多いことを実感しています。
楽器で、生活の中に彩りを
ーーほかに、今後アップサイクルを考えている素材はありますか?
今後は、ランドセルのように、個人で使っていた楽器もご依頼いただけるように準備しています。
楽器のアップサイクルをはじめたきっかけが、島村楽器さんからお声掛けいただいたことでした。※
廃棄楽器や耐用年数を過ぎた部品を引き取って、トランペットの照明や、サックスを使用したサイドテーブルなどを製作しました。
※島村楽器様とのコラボ詳細はこちら
島村楽器とのコラボで生まれたトランペットライト
楽器を途中で辞めちゃう方もいると思うんです。
そうした方の、家で眠っている楽器を引き取って、楽器をやっていたころの青春の思い出とともに、アップサイクルできたら素敵だな、と考えています。
いま手掛けようと考えているのは、バイオリンです。
僕は知らなかったんですが、バイオリンって、身体の成長とともにサイズを変えて使うそうなんです。
とくに子ども用だと、身体の大きさにあわせて10個以上サイズがあるそうです。
ギャラリーには、数多くの土井さんが手掛けた作品が飾られている
なので、バイオリンを続けるとともに、成長によって使わなくなるバイオリンが出てくることになります。
それを、こちらに送っていただいて、アップサイクルできないか、と考えています。
時計へとアップサイクルされたバイオリンの販売が開始されている
これからもランドセルや楽器だけでなく、個人の方のいろんな思い出の品を送っていただき、インテリアとして新しい命を吹き込んでいきたいです。
人と人とのコラボレートで、アップサイクルを広めたい
ーー最後に、今後やりたいことを教えてください。
アップサイクルを、もっと世に広めていきたいですね。
僕自身、自分の作品を売っていきたいというより、アップサイクルやその背景にある、「思い出や愛着を手放さず、ものを大事に使い続ける」という大切さを広めていきたいと思っているんです。
なので、同じ想いのブランドや作家さんの作品を集めた、<upcycle interior>というセレクトショップも、オープンしました。
<upcycle interior>で取り扱うブランド<NEWSED>の学校の椅子の背板を利用した、ハンガー
「アップサイクル」に興味を持っていただいた方に、いろんな作品と出会っていただく場として、これからどんどん発展させていきたいです。
また、<upcycle interior>のブランドや作家さん同士で、コラボ作品ができたらいいなと考えています。
アップサイクルは、異なるもの同士を組み合わせて、新しい価値を生み出します。
ネットショップを通じて、人と人とのコラボレーションでも、新しい価値をさらに生み出していけたらと考えています。
インタビューを終えて
だれもが持つ、学校用品への思い出や愛着を、新たなインテリア作品へとアップサイクルされている土井さん。
人それぞれが持つ、思い出や愛着にまで寄り添ってものづくりをされている姿勢が、とても印象的でした。
購入される方にも、そうした想いが伝わっているからこそ、多くの方へ<tumugu>、そして<upcycle interior>の作品が広まっているのでしょう。
ものを大事にする新しい方法としての「アップサイクル」が、<tumugu><upcycle interior>の作品とともに、さらに広まっていくことでしょう。
ショップ情報
ショップ:tumugu
セレクトショップ:upcycle interior
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