事業規模の大きい企業なら、自社ECサイトを構築する――。
ネットショップ運営のそんな「常識」をよそに、「BASE」を活用して課題解決に結びつけている大企業があります。
グループ連結で従業員数3,000人、売上高500億円を超える、富士急行株式会社。
テーマパーク<富士急ハイランド>をはじめとしたアミューズメント、鉄道・バス、ホテルなど、多様な事業を展開しています。
富士急グループでは、2020年から「BASE」を導入。2021年6月現在、6つのショップを展開しています。
同社が「BASE」でネットショップを展開する理由は、どこにあるのでしょうか? 富士急行株式会社 企画部商品開発担当の秋良真由(あきら まゆ)さんにお話をうかがいました。
ショップ名:<富士急ハイランドオフィシャルストア><富士急のりもの百貨店>ほか、計6ショップ
運営会社 :富士急行株式会社
創業 :1926年
運営スタッフ数:各ショップ数名
目次
グループ各社の個性があふれる、6つの多彩なネットショップ
――富士急グループでは、「BASE」を利用して6つのショップを運営しているそうですね。
はい、遊園地事業では、<富士急ハイランドオフィシャルストア>と<さがみ湖リゾートプレジャーフォレスト公式通販サイト>があり、お菓子やキャラクターグッズなどを販売しています。
鉄道・バス事業の<富士急のりもの百貨店>は、タオルやマスクなどのオリジナルグッズや、車両部品のジャンク品が人気です。
<富士急ハイランドオフィシャルストア>人気商品「富士急ハイランドオリジナルエコマスク」
その他<フジヤマクッキーオンラインショップ><ハイランドリゾート ホテル&スパ オンラインショップ>、山中湖畔のホテルマウント富士が運営する<富士急サウナリゾート オフィシャルグッズショップ>など、多彩な6ショップを「BASE」を使って展開しています。
――多彩なショップがそろっていて、ながめるだけでも楽しくなりますね。これらを「BASE」で展開しはじめたのは、2020年だったそうですね。どういった背景があったのでしょうか?
はい。春の新型コロナウイルス感染拡大で、人の移動が制限され、主力の遊園地事業や鉄道事業が大きな影響を受けました。
「今できることはなにか」を問い、たどりついた答えのひとつが、ネットショップの充実でした。
それまでも、グループ会社が独自に運営するネットショップは存在していましたが、今回は私たち本社商品開発チームが主導する形でのプロジェクトがスタートしました。
構想1ヶ月でオープン。実現のための最適解が、「BASE」だった
――新しくネットショップを立ち上げるにあたって、どんなことを重視したのでしょうか。
今回のプロジェクトでは、商品開発チームで方向性などを決めてショップを立ち上げ、それを各グループ会社で運営してもらう、という方針になっています。
そのため、「誰でも操作できる」ということは重要でした。
他サービスで作成していた既存ショップの更新作業には、HTMLなどの知識が必要でした。しかし、パソコン操作に慣れている社員ばかりではないので、担当者でなければ「なにも操作できない状態」に陥っていたんです。
だからこそ、新しいネットショップは、専門的な知識がなくても使えるシステムであることが必須でした。
――たしかに「担当者しかわからない」というのは、組織にとってマイナスですね。その他にも、重視していたことはあったのでしょうか?
できるだけ初期費用をかけずにショップをつくることも重視しました。
はじめての試みで、どれだけ売上が立つのかもわからない状況。莫大な予算を投じて大きなシステムをつくり、軌道修正しにくい状況になるのはリスクでした。
まずは「お試し」でやってみて、後から手直しができるように、あまりお金をかけずに立ち上げる方法を探しました。
またその上で、スピード感も重要だったんです。
プロジェクトのスタートが2020年7月。翌8月には<富士急ハイランドオフィシャルストア>を公開したかったので、準備にかけられる時間は1ヶ月あまりでした。
1ヶ月あまりの準備期間で制作された<富士急ハイランドオフィシャルストア>
「かんたんさ」「初期費用の低さ」「スピード」これら3つの条件を満たすサービスを、速やかに選定しなければなりませんでした。
――どのようにサービスを絞り込んでいったのですか?
まず、鉄道や遊園地など、同業他社のネットショップを研究しました。
調べてみると、少し前からECをやっている企業は自社ECが多かったのですが、数年以内に立ち上げた企業は、「BASE」をはじめとしたネットショップ作成サービスを利用しているところが多かったんです。
モール型という選択肢もありましたが、富士急グループ各社の「独自性」が出せないと考え、ネットショップ作成サービスの中から「BASE」を選びました。
――なにが、「BASE」を選ぶ決め手になったのでしょうか?
ひとつは、費用です。「BASE」は、登録料や月額料金が一切かかりません。そこは大きなポイントでした。
操作性も納得のいくものでした。
無料ですぐにアカウントがつくれるので、テスト商品を登録。ひととおり操作してみて、使いやすさを実感しました。これなら、「スピード感を持ってネットショップを開設できる」と思いました。
また、サイトごとに見せ方が変えられるショップデザイン機能も魅力でしたね。
無料のオフィシャルテーマのほか、有料のデザイナーズテーマも豊富で、ナビゲーションや背景などのカスタマイズも可能。
まるで自社ECのように個性的なショップを作れる点が、決め手になりました。
――たしかに、お金がかからないのでテスト的にアカウント開設することも可能ですね。無料のネットショップ作成サービスを利用することに対して、懸念の声は上がりませんでしたか?
当社には、「新しいことに、スピード感を持ってチャレンジしよう」という風土があるので、そうしたことはなかったですね。
広告代理店などにネットショップ運営をまるごと委託する企業も少なくないと思いますが、「自分たちで考え、手足を動かす」ことを是とする当社には、「BASE」が合っていました。
独自ドメインの取得も可能で、お客さまからの見え方も気になりませんでした。
ただ、社内の合意を得るために「他社も利用している信頼できるサービスなのか」「サポート体制はしっかりしているのか」という点は確認しました。
鉄道会社様など、同業他社での導入事例がありましたし、メール・チャットでのサポート、ショップ運営のノウハウが詰まった「BASE U」の存在も、安心感を高めてくれました。
大きな組織だからこそ生きている、「BASE」の“使いやすさ”
――現在、どんな体制でショップを運営されていますか?
当社には、EC専門の部署がありません。サイト制作は私たち商品開発担当がおこない、それぞれのショップの運営はグループ会社のスタッフに任せています。
使い方に関しては、一通り現場の社員にレクチャーをし、あとは「BASE U」をもとにつくったマニュアルを共有しています。
そのとおりに操作すれば、理解できるスタッフがほとんどです。なにか問い合わせがあれば、都度私たちがサポートできるようにしています。
――過去に作っていたネットショップでは「担当しかわからない」状態に陥っていたと思いますが、「BASE」でその課題は解決されたのでしょうか?
そうですね、販売促進のため定期的に商品を入れ替えたりしますが、「BASE」ショップでは、業務の合間の短時間で更新が可能になっています。
過去のネットショップでネックになっていた「一部のスタッフしか更新できない」「時間がかかる」という課題を解決できました。
大きな組織だからこそ、「誰でも使えるユーザビリティ」は大きなメリットだと感じています。
また、私たちのところへ「ここがわからない」とスタッフから問い合わせが来た時にも「BASE U」が役立っています。
サイト内には、Q&Aやコラムなど、細かな疑問を解決してくれるコンテンツが充実。スタッフにリンクを送り、見てもらいながら説明することもできています。
――操作がかんたんだからこそ、マニュアルのみで運営を任せられ、課題も解決できたんですね。ショップの立ち上げについてはいかがでしたか?
まず、とてもスピーディーにショップ開設ができたのはよかったですね。
最初に取り掛かったのは<富士急ハイランドオフィシャルストア>と<富士急のりもの百貨店>でした。
販売する商品や見せ方などを1ヶ月ほどで決定。その後、商品の画像と説明文を準備して、ショップ自体は1週間程度で完成させることができました。
有料テンプレートを使ったので、初期費用はショップごとに5,000~10,000円くらいだったと思います。
外注すると数十万円はかかると思うので、とてもリーズナブルでした。その後、2021年3月までに、グループ合計で6つのネットショップをリリースすることができました。
富士急行株式会社様で運用されている、BASEで制作した6つのショップ
――「BASE」を使いはじめて1年ほど経ちますが、運用してみたからこそ感じるメリットはありますか?
売上金額、注文数、平均単価などの売上データがダッシュボードにまとまっていて、とても見やすいなと感じています。
上司から「いまどのくらい売り上げている?」と言われても、パッとまとめて資料を作成できます。
ダッシュボードでは「売上」「流入経路」などさまざまな情報が確認できる(画像はイメージ)
日々のショップへの訪問数や集客経路もデータ化され、月ごとに比較しやすくなっているのも便利です。
グループ各社の公式Twitterでは、新商品の告知やネットショップへの誘導をしているので、ダッシュボードを見れば、効果測定も容易です。
ネットショップが、全国の「富士急ファン」とつながるツールに
――ネットショップをはじめたことで、どんな変化がありましたか?
全国にいらっしゃる「富士急ファン」とつながることができたのは大きかったですね。
ネットショップ立ち上げ当初は、関東圏のお客様が大多数と予想していたので、北海道から沖縄まで、日本全国から注文が届いたのは驚きました。
コロナ禍でリアルなイベントが少なくなるなか、ネットショップを通してお客様との新たなつながりが生まれたのは、よろこばしいことです。
とくに、現場では「ネットショップを展開すれば店舗への客足が遠のき、全体の売上を押し下げるのではないか」という懸念もありました。
ところが、実際にショップを立ち上げてみると、実店舗との「棲み分け」を考慮して商品を絞ったこともあり、相乗効果を発揮しています。
たとえば、「パートナーと富士急に遊びに行く前に、ネットショップでおそろいのグッズを買う」「買い忘れたおみやげをネットショップで購入する」というお客様もいらっしゃり、富士急グループでのレジャーをより楽しむツールとしてご利用いただけている印象です。
また、「もっとこんな商品はない?」などのご要望や、「プレゼント用に買ってよろこばれた」といった感想など、ネットショップ運営を通して寄せられるお客様の声も貴重です。
実店舗ではなかなか聞けない生の声は、商品開発に大いに生かすことができます。
「BASE」はトライ&エラーで改善を続ける企業に最適なプラットフォーム
――富士急グループのような大きな企業が、「BASE」を導入するメリットはどんな点だと思われますか?
大企業であることは、ネットショップ運営においてかならずしも有利に働くとは限りません。
とくに当社は、遊園地などサービス業を主力としており、モノをネットで売ることに関しては「新参者」です。日々改善を繰り返すことで、やっとほかのショップと肩を並べられるのです。
それを踏まえると、いつでも任意に機能を追加でき、「最初から完璧を目指さなくていい」点が、「BASE」のメリットだと思います。
当社では、まずミニマムの状態でネットショップをリリースし、お客様の声をもとに機能を付加していく手法を取りました。検索機能やカテゴリ設定などを追加することで、少しずつサイトを充実させていったのです。
私たちスタッフの使いやすさ以上に、「お客さまが使いやすいこと」は大切です。
トライ&エラーを繰り返しながら次のステップに向けて改善していくことで、本当に利用しやすいネットショップを作れる。それが「BASE」なのだと思います。
――今後の展望を教えてください。
「BASE」を使って、グループ各社の個性あふれるネットショップを構築できたので、今度はショップ間で相互誘客ができるような仕組みを整えていきたいですね。
また、商品の充実にも力を入れていきます。アミューズメントグッズを中心とした「モノ」はもちろん、電車の撮影会や車両工場の見学イベントなど「コト(体験)」もお客さまに提供していきます。
「アクセスすればなんでもそろう」
そんなショップを目指し、今後もチャレンジを続けていきます。
あとがき
コロナ禍で遊園地や鉄道を利用できないお客様とのつながりを、6つの新しいネットショップで取り戻した富士急グループ。
「かんたんさ」「初期費用の低さ」「スピード」という3つの特徴を持つ「BASE」を活用することで、早期にショップを立ち上げ、ショップを成長させています。
大きな企業だから、大きなシステムを。ではなく、大きな組織だからこそ「誰でも使えるユーザビリティ」が大切なんだ、ということに気づかされました。
そして富士急様の言葉を借りれば、「大企業であることは、ネットショップ運営においてかならずずしも有利に働くとは限りません」。
トライ&エラーを続けて、お客様のためにショップを運営していく。それができるショップこそが生き残っていくのだと思います。